夢の中の設計図

そこは深い森のようだ。無音の森の中を僕は進んでいる。

いつもの夢だ。

僕は木と木の間をすり抜ける。僕はそこにある道を―――――道のようなものを――――――口を閉ざしたままたどりつづける。日の光を少しでも浴びようと空へ伸びる枝。他の枝を制しようとする枝。侵入者を阻もうとする枝。枝。枝。枝。大丈夫、道はそこにある。顔にかかるシダの感触が妙にリアルだ。

どのくらいの時間が経ったのか、どのくらいの距離を歩いたのか、日も届かなく実感がつかめないが、いつの時か森を抜けた。

けれどそこは森の終わりではなく、森と森に挟まれた日のさす広場のような所であった。広場の少し向こうにはさらに深い森がと待ち構えている。森を抜けたというより、一時だけ森が開けたというふうに感じた。

そこには真っ白な塔が悠然と建っている。壁は汚れひとつなく、純白という言葉こそがふさわしい。この世には存在しない色の塔なのに、そこにあると不思議に違和感はない。むしろ何百年も前からそこにあるように周囲と同化している。塔には二つの尖塔がある。モスクのようにドーム型の屋根から一本の鋭い槍が天を刺そうとしている。装飾はまったくなく、ゴシック建築というよりもむしろ粘土で作ったようにシンプルだ。

塔には扉があった。その扉にも装飾はまったくなく真っ白であり、壁との切れ目だけが黒い。

僕はこの中に入らなくてはいけない。中の誰かが呼んでいるよりは、塔に呼ばれているように感じた。

僕はなんのためらいもなく、そう決められているがごとく扉を開けようとした。

しかし、扉は開かなかった。

そして僕は連れ戻される。

目が覚めると彼女が僕の顔を不思議そうに覗きこんでいる。

「おはよう。」

なぜ彼女がそこにいるのかよくわからないが、上半身を起こして僕は彼女に朝の挨拶をした。

「おはよう。」

「さっそく質問なんだけど、なんで君はここにいるんだい?」

「呼ばれたからよ。」

「誰に?」

「あなたに。」

「僕は寝ていたはずだから、君を呼んでいない。もしかすると呼んだかもしれないが、呼んでいたとなると僕は夢遊病ということになる。僕は夢遊病だった?」と、僕が言った。

昼間の記憶が、夜の夢になり、夜の夢は世界の原形になるの。」彼女は僕の質問には答えず言った。「つまり
夢を作るのは、自分自身、その夢が変われば現実も変わって行く。そして私はあなたの夢の引力で引き寄せられた。」

「つまり?」

「簡単にいうと、楽しい夢を見ましょうってこと。なんでそんな夢を見たの?」

「わからない。誰かが僕のことを呼んでいるのかもしれない。」

「これからどうするの?」

「何もしない。言葉にならないものを大事にしなくてはならない。時間が経てばいろんなことがわかると思う。残るべきものが残って、残らないものは残らない。時間が多くの部分を解決してくれる。時間が解決できないことを僕が解決するんだ。夢が僕に何を求めているのかわからない。僕はいったいどうすればいいのだろう?でもどうすればいいのかは僕にはわかっている。とにかく待っていればいいのだ。何かがやってくるのを待てばいいのだ。いつもそうだった。手詰まりになったときは、慌てて動く必要はない。じっと待っていれば、何かが起こる。何かがやってくる。じっと眼をこらして、薄明の中で何かが動き始めるのを待っていればいいのだ。僕は経験からそれを学んだ。そいつはいつか必ず動くのだ。もし、それが必要なものであるならば、それは必ず動く。」

「そう。じゃあゆっくり待ちましょう。」

 まもなくしてそれはやってきた。
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